COLUMN BIGJOE
ビッグ錠の昭和今昔物語
音の玉手箱6球スーパー
2011年 7月号(通巻69号)
ラジオが好きだ。今でもラジオ深夜便の愛聴者だ。私の最も古いラジオの記憶は小学校へ入る一年前、昭和二〇年の終戦直後、数度に亘る米軍の爆撃で焼土と化した大阪の我が家の小さな木製のラジオから流れていた?お山の杉の子?という童謡である。今でもこの歌を聞くと玄関前の防空壕入口の厚い鉄板や、焼け跡に点在していたトタン作りの小屋、そしてあちこちに転がっていた六角形の焼夷弾の殻が目に浮かんで来る。次に忘れられないのは?鐘の鳴る丘?という戦災孤児を扱ったラジオドラマの主題曲で、「鐘が鳴りますキンコンカン!」と歌いながら日の暮れるまでチャンバラゴッコをしていた。そのうち?リンゴの唄?や笹置シズ子の?買い物ブギ?に変わっていったのも、全てラジオからの聴き覚えだった。それ程毎日頻繁に同じ曲が流れていたのだろうか。 我が家は戦前から洋裁店を営んでいて、見習いのお手伝いさんがいつも口ずさんでいた大人の歌も、いつの間にか憶えていた。当時いわゆる流行歌を子供が歌うのは一般のご家庭では品のない事だと思われていて、学校では誰も流行歌を歌わなかった。我が両親は戦前の大正モダニズムの文化を青春時代に浴びていたので全く無頓着で、元宝塚ファンのお袋はラジオから流れてくる双葉あき子や淡谷のり子のブルースをミシンを踏みながら一緒に歌っていた。 昭和二五年の朝鮮戦争勃発と共に特需景気のお陰で日本もようやく戦後の荒廃から立ち直り、翌年には民間放送が開局、日本のラジオ文化は全盛を迎える。そして我が家にも新しいラジオがやってきた。その名も?六球スーパー?一世を風靡した日本のラジオの名品である。裏蓋をはずして中を見ると、まるで未来都市の如く部品が組み立てられていて、その中に六本のガラスの塔が屹立していて、その中で輝いているオレンジの光線はまるで宇宙の彼方から送られている様に思えた。正面のダイヤルの左端に酒瓶の蓋くらいの大きさの美しいグリーンのランプが点いていて、昔の強弱の度にグリーンの輪が微妙にうごめくのである。 魔法のグリーンのランプを眺めながら、グレン・ミラーのサウンドにしびれていた。今じゃ手に入らない体験が連続ラジオドラマだ。?新諸国物語・笛吹童子?や?紅孔雀?の放送時間になると、空地や路地から子供の姿が消え、?君の名は?という国民的メロドラマが始まる時間になると銭湯の女湯が空っぽになったという。 グリーンランプを見つめながら、流れてくる音のドラマに耳を傾け、登場人物の顔や表情、背景等をそれぞれの想像で描いていくあの快感は映画やテレビドラマでは味わえない豊かな世界を私たちの心の中に育んでくれた。ちなみに私の大好きだった連続ラジオドラマは喜劇俳優・花菱アチャコと浪花千栄子共演の?お父さんはお人好し?だった。ああ、いいラジオドラマを一杯傾けながら、独りで聞きたいなあ......。
ビッグ錠(びっぐ・じょう)佃 龍二
昭和14年10月17日生まれ。大阪府出身。高校在学中、貸本マンガ「バクダン君」でデビュー。広告デザイナーを経て、1971年少年マガジンにて「釘師サブやん」連載。以後「包丁人味平」「ピンボケ写太」「ドクロ坊主」「一本包丁満太郎」等。1998年より、ニューヨークに一年間在住。ミュージカルに目ざめ、2002年横浜国際マンガサミット、2008年京都国際マンガフェスティバルにて「ミュージカルの味平」を公演。大宅壮一東京マスコミ塾六期生。
平成23年7月1日発行(通巻69号)
編集長 木村政雄/アートディレクション&デザイン 額賀剛治/制作進行 池田大作
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